森林文化学習会 10月

R05年度学習会 ~森林生態を構成する土壌の世界~   [森林観察学習部会]

2023.10.2 10.26

森林生態系を構成する土壌について理解を深めるため、「森を支える土壌の世界」有光一登著 林業改良普及双書発行をテキストにして学習しています。

10月の学習項目は以下の通りでした。
〇10月12日 場所 事務所
19話 褐色森林土を土壌型で区分する ……………………定成
20話 分布面積が2番目の黒色土群と
高山隊などのボドゾル群……………………………………吉江

〇10月26日 場所 事務所
21話 赤・黄色土群と未熟土群 ……………………………渡辺
第6章 土壌を保全するために
22話 土壌を保全するうえで大切な森林管理……………黒田

11月の学習予定
〇11月2日 場所 ゆいわーく茅野 101会議室
おわりに ………………………………………………………井村j

〇11月17日(金) 講演会
「森林の根系を介して見る世界;植物と土壌の関わり」
講師:牧田直樹氏 信州大学理学部 物質循環学科
場所:ゆいわーく茅野101、102会議室

毎月このコーナーでは、学習した内容から、興味深い話題を抜粋して掲載していきます。

森をささえる土壌の世界 第6章 土壌を保全するために      (会員)黒田キミさんの資料より

22話 土壌を保全するうえで大切な森林管理

土壌中にも樹木の5倍弱の炭素を貯留
森林土壌の持っている機能は、水源涵養の働きが最近では注目され、関心を集めていますが、それと同じように大切なのが森林樹木や林床植物の生育基盤としての働きです。
1950年代、1960年代には、拡大造林が全国的に行われ、植栽するスギ、ヒノキ、カラマツなどの樹木の生育と土壌との関係が詳しく調べられ、全国各地の土壌の生産力が地位指数の形で表されました。
地位指数とは、林地の生産力をあらわす指数で、40年時における優勢木の平均樹高(m)でしめします。林地の生産力を樹高であらわす理由は,樹高が林のこみかたによって影響されることが最も少ないからです。40年以外の林の地位指数は,林齢と樹高からこの地位指数曲線によって求めます。

このような時代に比べれば、植林面積は極端に少なくなり、土壌の存在は忘れられがちですが、いろんな機能を発揮してくれる森林生態系の保護のためには、森林をささえる土壌の働きを正しく理解しておく必要があります。
<森林の機能として考えられることとは>
*木材生産  *水源涵養  *都市環境の保全  *野生鳥獣など生物種とその多様性の保全
*森林レクリエーションや教養,教育の場の提供  *景観の保全 *大気環境の保全
などあります。そしてこれらの多岐にわたる機能を持つ森林を支えているのが森林土壌です。
木材生産や水源涵養の面では森林土壌が主役を演じていると言っていいでしょうし、森林生態系の中での炭素や窒素、ミネラルなどの物質循環でも森林土壌の存在は不可欠です。
また、土壌中に大量の炭素が集積されることが、地球全体の環境問題として注目されている大気中の二酸化炭素の吸収固定に一定の役割を果たしているとして評価されています。
最近明らかにされた森林総合研究所の研究成果では、我が国の森林土壌中の炭素貯留量を試算したところ、全国で約52億トンもの炭素が貯留されていて、その量は全国の森林樹木中に蓄えられている炭素の5倍弱にも相当するという結果が得られています。これはわが国で1年間に化石燃料の消費によって放出される炭素の約18年分に相当するそうで、森林土壌が巨大な炭素貯留機能を果たしていることがわかります。
森林の持つ大気環境保全機能にも森林土壌が大きく寄与しているのです。

最表層の土壌を保全するような森林管理を
森林土壌の様々な機能を維持し、向上させるためには、Ao層を含めた最表層の土壌をできるだけ保全するような森林管理をする必要があります。
<森林の伐採に当って考えなければならないこと>
皆伐はできれば避けたい。皆伐によって保全すべきAo層の質や量が大きく変化するという調査結果がいくつも報告されています。皆伐によって上木が失われ、落葉落枝の供給が断たれると、Ao層の分解だけが進むのです。また林地がむき出しになるために直射日光を受け、風当たりも強くなるなど、林床の環境が激変して、Ao層や表層の鉱質土層が極端に乾燥して、水をはじく疎水性を帯びるようになることも、現場でよく見かけます。この結果、地表に降った雨は、地表を流れるので、土壌侵食が起こります。皆伐面積が大きいほど年間の浸食土量が指数曲線的に増えるという事実が明らかにされています。また、皆伐によって鉱質土層表層の粗孔隙が減って小孔隙が増え、透水性が低下することも知られています。皆伐によるこうした変化は土壌の生産機能にも悪影響をもたらします。
しかし、必要に応じて皆伐をせざるを得ない場合でも、次代の森林が更新される過程で、その保育(下刈り、つるきり、除伐、間伐など)が適正に行われれば、自然に回復する過程をたどるとみられるので、こうしたマイナス面を十分に熟知した上で森林管理は進めて行かなければならないということです。
最近では一度に大面積の皆伐が行われることは少なくなりましたが、広い面積を皆伐する場合にも広葉樹は伐倒せずに残すなどの工夫が土壌の保全に役立ちます。最近提唱されるようになったモザイク施業は、現存の森林をモザイク状に残して、皆伐、植林をするやり方ですが、これも土壌保全に好都合なやり方と言えます。
作業道を作設する場合には土壌浸食を誘発しないような路線の設定、排水路の配置に気をつけなければいけません。土壌の保全に配慮した施業をすることで、土壌の機能を維持向上させていくことができるのです。

(更新日 : 2023年10月31日)