森林文化学習会 8月

R05年度学習会 ~森林生態を構成する土壌の世界~   [森林観察学習部会]

2023.8.10 8.24
森林生態系を構成する土壌について理解を深めるため、「森を支える土壌の世界」有光一登著 林業改良普及双書発行をテキストにして学習しています。

8月の学習項目は以下の通りでした。
〇8月10日 場所 ゆいわーく茅野 集会室1
11話 粘土鉱物と腐植による養分の吸着保持………………南波
12話 陽イオン交換が植物にきわめて重要な理由…………井村e

〇8月24日 場所 ゆいわーく茅野 集会室1
13話 土壌の調べ方と手順……………………………………本村
14話 土壌を区分し、層の厚さ・土色を調べる……………池田

9月の学習予定
〇9月14日 場所 事務所
15話 土壌構造、土の堅密度、土性を調べる………………吉田
16話 わが国の土壌を種類分けすると8グループに………本村

〇9月28日 場所 事務所
17話 土壌図を作成し土壌の分布を知る……………………吉江
第5章 森林土壌の種類と特徴
18話 圧倒的に面積割合が高い褐色森林土…………………矢崎

毎月このコーナーでは、学習した内容から、興味深い話題を抜粋して掲載していきます。

森をささえる土壌の世界 第3章 土壌の成り立ちと性質     (会員)井村悦子

12話 陽イオン交換が植物にきわめて重要な理由

◎1850年にイギリスで陽イオン交換を発見
富豪の農場主トンプソンとその友人の薬剤師スペンスが図9の図の実験をして発見した。

出典:「森を支える土壌の世界」有光一登著
出典:「森を支える土壌の世界」有光一登著

カルシウムを多く含む土壌を水で洗い流してもカルシウムは出てこないが、硫酸アンモニウム、塩化カリウムの薄い溶液を流すと、カルシウムが出てきて、アンモニウム、カリウムは出てこない。アンモニウム、カリウム(プラスイオン)はカルシウムイオンと入れ替わって土壌に吸収され、それとペアの硫酸、塩素(マイナスイオン)は吸着されずカルシウムと一緒に出てくる。
→ 陽イオン交換の発見
陽イオン交換は、土壌の粘土、腐植の働きによる。
粘土も腐植もマイナスの荷電(陰荷電)で アンモニウム、カリウム、カルシウムの陽イオンを吸着し、硫酸、塩素(マイナスイオン)は吸着されず出てくる。
粘土、腐植の複合体の土壌粒子はマイナスの電気を帯びた手で、プラスの電気を持った陽イオンと結びつく。

◎イオン交換で各種イオンを土壌中に保持
カルシウムイオンよりアンモニウムイオン、カリウムイオンの方が土壌粒子に吸着されやすい。
1個のカルシウムイオンは土壌粒子のマイナスの電気の手2本と手を結んでいるが、入れ替わったアンモニウムイオンはマイナスの手1本と結びつく。
土壌粒子のまわりにある電気を帯びた手は粘土、腐植の性質によってその数が違う。一定の土壌の、この手の総数が、その土壌の持つイオン交換のはたらきを示す陽イオン交換容量と呼ばれる。
イオン交換により、農地に施される化学肥料(アンモニウムイオン、カリウムイオン)が土壌に保持され、作物の根に吸収される。(硫安は硫酸アンモニウムが成分)

<森林土壌 森林生態系養分循環サイクル>
落葉・落枝(有機物)の分解、空気窒素の固定、母岩の風化 → アンモニウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのイオン → 陽イオン交換 → 土壌中に保持 → 植物が吸収
これがなければ降水量の多い日本では、土壌中の養分は雨水によって洗い流されてしまう。
森林生態系の中での、土壌の役割は大きい

◎土壌の酸度は水素イオンの多寡で決まる
土壌粒子のマイナスの電子の手は、土壌の反応(酸性、中性、アルカリ性)にも関係する。
電気の手は水素イオンも結びつく。この水素イオンの多い少ないは酸度の違いをもたらす。
土壌の反応の測定は、酸度の測定とpHの測定があるが、酸度とpHは少し違った内容だが、多くの場合、比例関係にあるので、pHの方が簡単に測定できるので広く普通に使われている。
酸性 < pH7(中性) < アルカリ性
土壌の反応は母材や気候、地形など環境諸因子(言い換えれば土壌生成因子)の影響で変異する。
〇石灰岩母材のチョコレート色をした暗赤色土pH7.0、或はそれを以上のアルカリ性のものもある。
〇その他の母材の場合はpH 6.0がほぼ上限値
〇酸性の強いポドゾル(亜高山帯の針葉樹林に分布)有機物を含む表層でpH3.5前後 これがほぼ下限
〇褐色森林土の表層では pH4.0が下限
同じ褐色森林土でも地形によっても変わる。
〇尾根筋、斜面上部に分布する乾性褐色森林土の表層土 pH4台
まる斜面下部に分布する 適潤性、弱湿性褐色森林土の表層 pH5台
この違いは、尾根筋、斜面上部では土壌粒子のマイナスイオンと結びつくはずの陽イオンが水素イオンに席を譲り、水と一緒に下流に流れ、下流の斜面下部の土壌粒子のマイナスイオンと結びつく→下流ではマイナスイオンと結びつく水素イオンが少なくなる。
→結果、斜面下部のpHが高くなる。

◎我が国の土壌はほとんどが酸性
森林土壌のpHは3台~6台で酸性。
これは、有機物が分解して腐植が生成される途中の不完全な中間段階でできる多種多様な有機酸に起因すると考えられているが、その正体は未だあきらかになっていない。
農地土壌だと石灰肥料を施用したりして酸度を矯正するが、森林土壌は自然任せ。
我国の森林土壌はほとんどが酸性土壌。そこには酸性土壌の方が適している樹種が生育している。
<酸性土壌を好む樹種>
エゾマツ、トドマツ、アオモリトドマツ(オオシラビソ)、シラベ(シラビソ)、コメツガ、アカマツ、ブナ、ミズナラ、コナラ、シイ、タブノキ、カシ類
人工林のスギ、ヒノキ、カラマツ。
森林土壌は土壌が酸性でも問題なし。

(更新日 : 2023年08月31日)