森林文化学習会 1月

大地の五億年

R04年度学習会 ~生物多様性への理解~   [森林観察学習部会]

2023.1.12

藤井一至著「大地の五億年」を学習します。

1月の学習項目は以下の通りでした。
〇1月12日
第4章 土のこれから
ポテトチップスの代償~ ………………矢崎
あとがき……………………………………井村j
場所:ゆいわーく茅野 集会室1

2月の学習予定
〇2月25日(土) 14時~16時
纏めの講演会
場所 ゆいわーく茅野 301、302会議室

毎月このコーナーでは、学習した内容から、興味深い話題を抜粋して掲載していきます。

大地の五億年 ~せめぎあう土と生き物たち~    井村淳一さん(会員)の資料より抜粋

あとがき
忘れることができない感動の瞬間
それは、「酸性=悪」という私の思い込みがひっくり返った瞬間
(1)土壌を酸性に変える犯人が植物自身だと分かったとき(P-69~72)
(2)熱帯雨林の落ち葉から滲みだした茶色い水を観察したとき(P-149~153)
(3)焼畑農業に酸性を食い止める仕組みがあることを発見したとき(P-179~182)

本書で一番に伝えたかったこと
土を巡る自然現象の精緻さと、過酷な条件下でもたくましく生きてきた動植物、そして、ヒトへの驚きと感動である。
5億年を通して動植物が見せた土壌への適応力、一万年かけてヒトが編み出した農業の知識・技術は、環境破壊や勝者・敗者を生んだ歴史さえも渾然一体となって私を魅了した。

もう一つつたえたかったこと
日ごろ土と触れることのない多くの人に、土もすごいということを知ってもらうこと。
今日では、コンクリートに覆われた地面、きれいに洗われた野菜に、土といのちの結びつきは見えにくくなった。当たり前のように多くのサービスを提供してくれる土にもう少し感謝しても良いのではないだろうか。
土の歩んだ5億年の道のりを振り返る旅のゴールは、足元から私達の暮らしを見つめなおす旅のスタートラインでもある。

文庫版あとがき(P-287~P301)
本は2015年12月に発刊されたヤマケイ「大地の5億年」を加筆修正のうえ、2022年12月に文庫化したもの。
その間、気候変動や土壌劣化への危機感、持続可能な開発目標(SDGs)、食料危機、未知なる微生物に対する期待と不安は高まり続けている。コロナ禍、肥料・燃料の供給不足や価格高騰、農林水産省が打ち出した「みどりの食料システム戦略」のような政策転換も含めて、たった7年で土に対する期待や関心事は大きく変化した。

土に関する知見の更新
2015年(国際土壌年)に国連食糧機関は「地球上の土の33%以上が既に劣化し、2050年までに90%以上の土が劣化する」「1分間にサッカーコート30面分の肥沃な土が失われている」と危機感を訴えたが、このデータには根拠がなく事実は90%ではなく「16%の土が100年のうちに肥沃な表土(表層30cm)を失う危険がある」ということが真相。

アフリカ・アジアの土壌劣化による経済損失は毎年16兆円と試算されている。人類は、ここ100年の間に二酸化炭素が40%も増加した空気で呼吸するようになった。主犯格は化石燃料だが、土壌劣化により放出された二酸化炭素も2割ほど加担している。

土壌劣化は地面の下でゆっくり進行する。北米プレーリーでは過去100年の間に肥沃な表土の半分を失ったと試算されている。土を耕しすぎると10年のうちに厚み1cmの土が失われるが、土が再生するには、100年~1000年もの時間がかかる。人類には土が作れない以上、植物と微生物の働きによる土壌発達を待つしかない。土壌が劣化してしまってからでは遅い。

ここ10年で世界人口は10億人増加したが、耕地面積(単年生作物の栽培畑)は約15億ヘクタールで頭打ちになっている。限られた畑で増加しつづける世界人口が暮らしていくには、土の肥沃さを維持・向上しながら収穫量を高める必要がある。

有機農業と慣行農法(P-292~296)
腐植栄養説:
植物は腐植を栄養として育つ。植物の生長の仕組みが解明される200年前まではこの説が主流であった。神話の時代からこの説に基づく有機農法が維持されてきた。
無機栄養説:
200年前に植物は主に無機栄養を吸収して成長することが明らかになり化学肥料の有効性が主張され、これが食料増産の「緑の革命」につながり、慣行農業として定着した。
しかし化学肥料の使用一辺倒になることが土壌劣化の原因であることも明らかになる。有機肥料と化学肥料は二者択一ではなく、補完しあい相乗効果を生むべきもの。

一握りの土に5億年の重みがあることを説明してきたはずだが、手にとった土は意外にも軽い。触ってみないとわからないことが多い。
触れたことのないものの大切さを実感として理解するのは難しい。土の匂いを、ドングリのひたむきさを、一握りの土の軽さと5億年の重みを実感することは、足元の土を理解する一歩になるはずだ。
マニアックな土の話しも 知っている人が増えれば、常識になる。淡い期待をして筆をおきたい。

(更新日 : 2023年01月30日)