R04年度学習会 ~生物多様性への理解~ [森林観察学習部会]
2022.11.10 11.24
10月6日に前半が終了し、20日からは、藤井一至著「大地の五億年」を学習します。
11月の学習項目は以下の通りでした。
〇11月10日
第1章 土が来た道:逆境を乗り越えた植物たち
地球に土ができるまで~ ……………井村e
ジェラシック・ソイル~ ……………吉田n
〇11月24日
第1章 土が来た道:逆境を乗り越えた植物たち
氷の世界の森と土~ …………………池田
第2章 土が育む動物たち:微生物から恐竜まで
栄養分をかき集める生き物たち~ …中野
12月の学習予定
〇12月1日
第2章 土が育む動物たち:微生物から恐竜まで
土と生き物を繋ぐ森のエキス~ ……吉江
第3章 ヒトと土の一万年
土に適したヒト~ ……………………黒田
〇12月15日
第3章 ヒトと土の一万年
田んぼによる酸性土壌の克服~ ……井村j
第4章 土のこれから
土を変えたエネルギー革命~ ………定成
毎月このコーナーでは、学習した内容から、興味深い話題を抜粋して掲載していきます。
大地の五億年 第1章 土の来た道:逆境を乗り越えた植物たち 井村悦子さん(会員)の資料より抜粋
地球に土ができるまで
〇岩石砂漠を開拓した地衣類
地球にあって、月と火星にないもの――― それが土
月や火星では岩が風化して、砂や粘土の堆積層(レゴリス)はつくれても、土にはなれない。
地球の歴史46憶年のうち41億年の間、陸上生物はいなかった。→土はなかった。
〇岩石を溶かすコケ
最初に出現したコケや地衣類は酸性物質(クエン酸、リンゴ酸)を滲みだし、岩を溶かし生存のために必須な栄養分(リン、カルシウム、カリウム)を得ている。
この砂や粘土に地衣類、コケの遺骸(有機物)が混じった物 →これが最初の土
〇土が生んだ黒いダイヤ
地衣類やコケは岩を耕し、一億年をかけて水辺に砂や粘土を堆積した。
ここで、シダ植物が登場する。シダ植物は水と栄養分を運ぶ根と維管束を持つ点で、コケとは大きく異なる。
シダ類は、大地に根を下ろした最初の植物で、本格的「土壌」の誕生となる。
<4億年前の土とは>
大地は蒸し暑く、大気中のCO2の濃度は現在の10倍。地球全体の平均気温は3℃高かった。4億年前の水辺に最初に発達した土壌が泥炭土だった。
熱帯湿潤という環境は微生物の活動が盛んで植物遺体はすぐ分解されるが、水辺の植物の遺体は水に浸かり、水中では酸素が少なく微生物の分解が進まない。
1年に1㎜から3㎜の速度で堆積し、やがて数m、数十mの泥炭土が生成される。
泥炭層は、数千万年から数億年かけて地中深く埋まり、地下の高熱・高圧条件で変質し、石炭となった。
シダ植物は地球の最初の土壌を誕生させただけでなく、森を創った。
大陸移動とシダの森
〇赤毛のアンと大陸移動
<プリンスエドワード島の歴史>
赤毛のアンの舞台であるプリンスエドワード島の地面は赤い。赤い色はヘマタイトと呼ばれる鉄酸化物(鉄さび)。赤い土は熱帯地方に多いが、なぜカナダに?→4億年前、プリンスエドワード島は南半球の赤道付近にあった。その時、赤い鉄酸化物を多く含む熱帯土壌が生成され、赤い砂岩として堆積し、2億年かけて現在の位置に移動した。
〇シダの森と気候変動
<シダによるCO2の固定>
3.5憶年前、北米大陸は赤道の近くの熱帯環境にあった。そこで、湿地にはシダの「森」が繁茂していた。
シダ植物は高さ40mもあった。
大量のCO2を吸収し大森林を形成した。しかし、シダは茎の強度が弱く、風が吹けば倒れ遺骸が堆積し泥炭土が堆積した。シダの成長量が増加し、泥炭の堆積速度も高まり、大量のCO2を地下に固定した。
シダ樹木の根は酸性物質を放出して岩石の風化が加速する。岩石から放出されるカルシウムは大気中のCO2と結合して炭酸カルシウムが生成される。シダは地下でもCO2を固定した。
大森林と土壌が生まれ、一億年かけて大量のCO2を吸収した結果、3億年前には7℃も寒冷化し、極地で大陸氷河ができ、海水面が数百m低下した。
大気中の酸素濃度は現在の2倍に上昇し、昆虫の巨大化を引き起こす。60cmサイズのトンボ、1mのゴキブリ、2mのムカデなどが繁栄。
シダ植物は地球最初の本格的な森と土を形成し、大陸移動と共に壮大な気候変動を引き起こした。
樹木とキノコの出会い
〇裸子植物と根の進化
シダ植物が衰え、新種の裸子植物・グロッソプテリスがゴンドワナ大陸で主役となった。
シダ植物の胞子より、乾燥に強い「種子」をもつその植物とは、イチョウ、マツ、スギなどのご先祖。
植物は2つの適応を見せる。
・通気のできる根を持つ。
例:イネ、マングローブの根。
・「リグニン」の生成
〇謎の物質・リグニンの出現
リグニン:芳香族化合物が複雑に結合した物質で、植物の主成分であるセルロースとは大きく異なる。
リグニンを作るのは、セルロースを作るよりコストがかかるが、植物の強度を高めるメリットがある。
リグニンを多く含むことで、物理的に強くなり、害虫への防御力も高まった。
土の中の微生物にとっては、リグニンを多く含む植物遺体はどのように処理したらいいか分からず、食べ残しが増え、分解が追い付かず泥炭が堆積していった。
微生物の対応の遅れが、地球史上最大の石炭蓄積時代を引き起こした。
〇キノコの進化と石炭紀の終焉
腐るということは微生物による分解を受けるということで、有機物の分解によって、植物体に吸収されていた栄養分(窒素、リン、カルシウムなど)が循環する。
3億年前に迎えた養分リサイクルの停止は、生態系にとって大ピンチ
ここで、キノコの進化が状況を一変させた。
キノコは生態系では有機物を分解する分解者と位置付けられている。特に担子菌のキノコは有能であり、森の中の養分のリサイクルを担っている。
石炭紀には担子菌のキノコは少なく、リグニンの分解力もなかった。
2.5憶年前、キノコの種類が増えはじめ、これが有機物の分解において転換期となった。
<キノコの進化>
森の土の下はキノコやカビの菌糸が張り巡らされ、有機物の分解反応が起こる最前線。キノコの菌糸は微細だがリグニンの複雑な構造内部まで入っていけない。ところが、ごく一部のキノコは、菌糸からペルオキシダーゼという特殊な酵素を放出し、ペルオキシダーゼは水中へ強力な酸化剤を放出する基地となってリグニンを分解する。このキノコのグループは、木材を白く腐らせる白色腐朽菌といわれる。
キノコの進化は地球史上最大の石炭蓄積時代(石炭紀)を終焉させた。
キノコと樹木の進化により、森の土の物質リサイクル機能が確立し、地球の物質バランスが保たれるようになった。
(更新日 : 2022年11月30日)