森林文化学習会 7月

絵でわかる生物多様性

R04年度学習会 ~生物多様性への理解~   [森林観察学習部会]

2022.7.7 7.21

「生物多様性への理解」をテーマに、今年度前半は、鷲谷いずみ著「絵でわかる生物多様性」を学習します。
7月の学習項目は以下の通りでした。
〇7月7日
第3章 生物多様性の危機と人間の活動
3.4 絶滅どころか蔓延する種~ ……………吉田
第4章 絶滅のプロセスとリスク
4.1 絶滅に向かう過程と小さな個体群~ …黒田

〇7月21日
コロナ感染拡大防止の観点で、中止しました。

8月の学習予定
未定。
コロナウイルス感染症の感染状況をみて、お知らせいたします。

毎月このコーナーでは、学習した内容から、興味深い話題を抜粋して掲載していきます。

第4章 絶滅のプロセスとリスク         黒田キミ(会員)

4.1 絶滅に向かう過程と小さな個体群
<普通種が絶滅に追い込まれた例>
絶滅のリスクにさらされているのは、希少な生物だけではない。第3章で概観した人間活動の影響は、本来は個体数の多い普通種も容赦なく絶滅に追い込む。
その代表的な例が北アメリカでもっとも個体数が多い鳥であったリョコウバトである。

<個体群が絶滅に追い込まれる過程とその保全策>
種の絶滅は、個体群の絶滅を通じておこる。
個体群の絶滅を防ぐために必要な対策としては、絶滅に至る過程を二つの段階に分けて考える必要がある。
第一段階 個体群に含まれる個体数が、引き続き減少している段階
その対策として:なぜ、その減少傾向が続いているのか、原因を突き止め、その原因を取り除く。
第二段階 第一段階の結果、それぞれの種に特有な限界値よりも少なくなり、個体群が絶滅しやすい小さな個体群になった段階
その対策として:個体数の回復を図る。

<絶滅リスクを高めている人間活動に由来する直接の要因>
〇 乱獲や過剰採集
〇 環境汚染や富栄養化
〇 侵略的外来生物の影響
〇 ハビタット(生息場所)の分断、孤立化

サクラソウ
サクラソウ

生物は、これらの複合的な影響で、小さな個体群に陥る種が少なくない。
右は、サクラソウ。
繁殖型が自家不和合性のため、小さい個体群になると繁殖できなくなる恐れがある。

4.2 小さな個体群の絶滅リスク
<絶滅リスクを高める要因>
決定論的要因と確率論的要因 がある。
◎決定論的要因
個体数が少なくなることによって、確実に生存率や繁殖率を低下させる原因
近交弱勢(近親交配による生まれる子の減少と子の生存力と繫殖力の低下)
アリー効果の喪失(群が小さくなることによって、繁殖相手を選べない、餌を探したり採ったりする時間が少なくなる)
◎確率論的要因
数が少なくなることに伴って偶然が個体群の運命を大きく支配する事になる原因で、次のようなものがある。
①環境確率変動性
②カタストロフ
③個体群統計確率変動性
④遺伝的変動性

決定論的要因 その1
〇近交弱勢 原因として考えられるのは、個体数の減少によって有害遺伝子の発現の確率が高まることである。
近交弱勢の主要な原因:有害遺伝子の発現
決定論的要因 その2
〇アリー効果 アリー効果は、生態学において、個体群密度の増加によって個体群に属する個体の適応度が増加する現象のことである。アメリカの生態学者であるウォーダー・クライド・アリーによって提唱されたことから、アリー効果と呼ばれる。(ウィキペディア)
*草食動物など大きな群れで生活する動物ではこの効果が顕著である。
その理由:天敵の見張り
餌を食べる
この二つのことをする時間を有効利用できる。
〇植物の場合、花粉を媒介するのに必要な蝶、蜂などのポリネーターは、花がまとまって咲いているところに誘引されやすい。
また、繁殖型の偏りにより交配が出来ないということも解消される

確率論的要因
確率論的要因は、数が少なくなることに伴って偶然が個体群の運命を大きく支配するようになることである。この要因には、次の4つのものがある。
①環境確率変動性 通常範囲内の環境の変動に基づく個体群の変動(自然災害などが続くと絶滅の危機に近づくなど)
②カタストロフ 山火事、洪水、地震、台風など、個体群全体の運命に大きな影響を与える環境
③個体群統計確率変動性:標本抽出効果の一種であり、個体群の平均的な適応度や繁殖成功度が安定していても、特定の個体が共存や繁殖に成功するか否かが偶然に支配されること。
④遺伝的確率変動性 遺伝的浮動と呼ばれる。
対立遺伝子の頻度が偶然によりランダムに変動することを言う。
遺伝子頻度の偏りを生じ、特定の対立遺伝子が失われることがある。小さな個体群が遺伝的多様性を失う要因の一つである。

出展:教本より
出展:教本より

絶滅の渦
絶滅は、これまで見て来たことからわかるように、生息地の面積の縮少、遺伝子の多様性の低下、近交弱勢、人口学的な確率性、アリー効果の低下などが次々に繰り返されることにより、渦を描くように個体数の減少が引き起こされ絶滅に向かっていく。

(更新日 : 2022年07月30日)