森林文化学習会 6月

絵でわかる生物多様性

R04年度学習会 ~生物多様性への理解~   [森林観察学習部会]

2022.6.2 6.16

「生物多様性への理解」をテーマに、今年度前半は、鷲谷いずみ著「絵でわかる生物多様性」を学習します。
6月の学習項目は以下の通りでした。
〇6月2日
第2章 生物多様性の形成と維持
2.1 生命の歴史と生物多様性 ………………中野
2.2 多様化は生物の遺伝・進化の必然~ …矢崎
〇6月16日
2.4 種分化とエコタイプ~ …………………井村e
第3章 生物多様性の危機と人間の活動
3.1 生命史第六番目の大量絶滅~ …………池田

7月の学習予定
〇7月7日
第3章 生物多様性の危機と人間の活動
3.4 絶滅どころか蔓延する種~ ……………吉田
第4章 絶滅のプロセスとリスク
4.1 絶滅に向かう過程と小さな個体群~ …黒田
〇7月21日
第5章 生物多様性の保全
5.1 生物多様性条約~ ………………………吉江
5.4 生物多様性基本法と生物多様性戦略~ 定成

毎月このコーナーでは、学習した内容から、興味深い話題を抜粋して掲載していきます。

第2章 生物多様性の形成と維持        井村悦子(会員)

2.6 競争に抗して多種共存を可能にするのは
競争とは共通の資源の奪い合いと定義される。強い種が資源を独占することで、多種の共存を妨げる。
例:外来牧草シナダレスズメガヤ(緑化植物として導入し野生化)が高密度で生育
→河原に固有の在来植物を排除し圧倒的に優占
→牧草地のような単純な草原に変えてしまう。
この現象を競争排他(もしくは競争排除)
競争は、エネルギーやバイオマスなどの独占で、 多くの資源を総合してニッチ(1つの種が利用する、あるまとまった範囲の環境要因のこと。)の奪い合いとみることができる。競争排他は「同じニッチを利用する2種は共存できない」と表現されることもある。
しかし、ニッチの類似した種が共存していることも少なくない。競争排他を抑える生態的な作用が働いている。
多種共存を可能にしている原理
①異なる資源の利用において種の優位性の順序が一貫しているとは限らない。
②環境が時間的空間的に変動しており、競争における種の優劣が環境変動によって入れ替わる。
③競争の勝負がつかないうちに攪乱によって、競争がふりだしに戻される。

モザイク環境(ある空間の範囲内に異質なハビタット(生息場所)がモザイクのように組み合わされている)は②の空間的な変動(不均一性)による多種の共存が可能。
里地・里山(さとやま)はヒトがその暮らしと生産の必要性に応じてつくりだし、維持しているモザイク環境である。
そこでの植物資源の採取は③の攪乱の効果がある。さとやまの生物多様性の豊かさは、多種共存のための条件が土地利用とそこでの植物資源の利用を介してヒトの手で整えられていることによっている。

2.7 モザイク環境と攪乱:さとやまの生物多様性とヒト
里地・里山(さとやま)を特徴づけているのは、モザイク環境と攪乱。
初期のヒトが暮らした水辺を伴うサバンナ:疎林、草原、河畔林、湿地などが作るモザイク環境だった。
ヒトは祖先の人類と同様、空間的に変化に富んだ環境で多様な生物資源を採集して餌をとる雑食性の動物。
雑食性の動物は環境変化に応じて餌を臨機応変に変えて、今まで生き残ってきた。
モザイク環境の一つの重要な要素は湿地(干潟を含む)で、貝、魚などのたんぱく質を含む多様な餌を比較的沢山容易に得られる。
〇タンパク質を多く含む餌→脳の発達
〇モザイク環境の利用によって、感覚器官が絶えず複雑な刺激→空間の認知と記憶の発達を促す強い選択圧となり、知的能力を適応進化させた。

さとやまで五感を研ぎ澄ましながら遊び学ぶことは、ヒトの子供の成長過程において特に重要であると言える。

さとやまでの肥料や燃料、飼料や建材などの採集、火入れなどによる管理は、生態学の言葉では「適度な攪乱」となっている。
適度な攪乱が、光りをめぐる競争に強く旺盛に成長する植物を取り除き、地表まで明るい環境を作り出す。
→サクラソウやスミレのような草丈の小さい植物、それらと共生関係にある生物など多様な生物の生息・生育が可能となる。
採集や火入れ→土壌から窒素やリンなどの栄養塩を減らし、貧栄養で雑菌の少ない植物の生育にとって衛生的な土壌が用意することである。

生物の環境への適応進化には、何世代もの世代時間が必要。ヒトが成人して子供を作るまでの約20年を1世代とすると、ヒト以前から人類が続けてきた採取は何万世代。
→ヒトの身体も心も採集に適している。ドングリや貝を拾う、魚を釣る、キイチゴを摘むなどが楽しいのは当然。
農業開始から現在までのヒトの世代は400世代。衣食住を始め必要な物を工業製品、近代技術と工業に基づく生活は、たかが200年、10世代程度。

ときには、さとやまに身を置き、そこで多様な生物と接したり、利用したりする時間をもつことは、子どもにとっても大人にとっても意義が大きい。それは、そこがいわば、私たちの心の進化的なよりどころでもあるからである。

(更新日 : 2022年06月29日)