森林文化学習会 3月

R03年度学習会 ~生物多様性への理解~   [森林観察学習部会]

2022.3.17 3.31

3月の学習項目は以下の通りでした。
〇3月17日
第15章 遺伝のしくみ………………………黒田
第16章 花粉症はなぜ起きる………………井村e
第17章 がんは進化する……………………吉江

〇3月31日
第18章 一気飲みしてはいけない…………池田
第19章 不老不死とIPS細胞………………中野

来年度の学習会は、5月からの開始となります。

第16章 花粉症はなぜ起きる          井村悦子さん(会員)の資料より抜粋

免疫と抗体

出典:教材「美しい生物学講義」
出典:教材「美しい生物学講義」

細菌やウイルスが私たちの体の中に侵入するのを最初に防いでいるのは皮膚で、皮膚は細胞と細胞がぴったり密着し、侵入を防いでいる。

しかし、❶皮膚がけがをして切れると侵入してくる。❷皮膚が切れると近くの血管が広がり、
➌血管壁がゆるんで白血球が血管の外に出る。
❹この白血球が病原体を排除する。このシステムを免疫という。
免疫は自然免疫獲得免疫に分けられ、病原体が侵入してきて最初に働くのが自然免疫。
免疫をつかさどる白血球はいくつかの種類があり、自然免疫を担当するもの(マクロファージや樹状細胞など)、獲得免疫を担当するもの(B細胞とT細胞)がある。

<自然免疫>
あらゆる病原体をまとめて相手にする。
複雑なシステムで様々な病原体を区別し、それに適した攻撃をする。
自然免疫を担当する白血球には受容体(外部から来た分子と結合する部分)があり、この受容体によって侵入した病原体の種類を区別する。その一つがトル様受容体(TLR)で沢山の種類がある。
例えば、TLR3はウイルス、TLR4は細菌、TLR5は寄生虫と結合し、病原体の種類を識別して攻撃する。
TLR4は細菌の細胞壁にある多糖類と結合。細胞が細胞壁を変化させるのは難しいので長期間にわたって有効な受容体となっている。
自然免疫は免疫反応のほとんど(一説では95%)をしめる。脊椎動物以外の生物は自然免疫しか持っていない。自然免疫はとても大切な免疫と言える。

<獲得免疫>
種類は多い。代表的なものは抗体。
これは、獲得免疫を担当するB細胞(という白血球)が作るたんぱく質(免疫グロブリン)で、抗体が病原体に結合して病原体を攻撃する。その方法は、
・抗体が病原体を囲んで活動できなくする。
・病原体同士をつなげて沈殿させる。
・病原体に結合した抗体によってマクロファージが病原体を食べやすくし、マクロファージの働きを助ける。マクロファージは白血球の一種でアメーバのような動きをして病原体などを食べる細胞。
このような抗体の種類が数十億種類もあると言われる。

ヒトの抗体は5つのクラス(種類)に分けられる。 (Ig:免疫グロブリン(Immnoglobulin)の略)
そのクラスは、IgG(約75%)、IgM、IgA、IgD、IgE(0.001%以下)で、IgEは花粉症を引き起こす抗体

花粉症はなぜ起きるか?
免疫は働かなくては困るが、働き過ぎても困る。
免疫が働かないことをアナジー、免疫の働き過ぎることをアレルギー(有名なのは花粉症)という。
アレルギーを起こす抗原をアレルゲンといい、花粉症のアレルゲンは花粉で、日本ではスギ花粉による花粉症が1番多い。
白血球の一種に、マスト細胞がある。マスト細胞の細胞表面にトル様受容体を持っていて、病原体を認識すると、それを攻撃する物質を分泌する。
その一方、マスト細胞は細胞の表面にIgE受容体も持っている。これが花粉症を起こす原因になる。

<花粉症発生のメカニズム>
第一段階

出典:教材「美しい生物学講義」
出典:教材「美しい生物学講義」

❶鼻孔に花粉が入る。❷これに反応してB細胞がIgEを作る。➌IgEはマスト細胞の表面にあるIgE受容体に結合する。
第2段階
❹再び花粉が入る(鼻孔の粘膜にはマスト細胞があり、その表面には既にIgEが並んでいる)
➎そのIgEに花粉が次々結合(IgEを介してマスト細胞が結合)
❻これが刺激となってマスト細胞は内部にあったヒスタミンを放出
➐このヒスタミンで花粉症の四大症状(くしゃみ、鼻水、鼻づまり、芽のかゆみ)を起こす。

<花粉症が多くなった原因>
花粉症のアレルギーで悩む人は、最近100年間でほぼ100倍となった。
その原因の仮説
・上下水道の普及などで衛生状態が良くなり、身の回りの病原菌が減少したが、それに反比例してアレルギーが増えている。清潔になることで、免疫の働きに変化が起き、アレルギーが増えたという説。
・私たちの腸内の寄生虫が減ったことが原因という説。
もしそうだとしても、どこまで不清潔にすればよいかは難しい問題だ。

世の中には、まだ結論が下せない問題がたくさんある。そういうとき、人は焦って、ついどちらかの結論を信じたくなってしまう。これは正しいと100%信じたり、これは間違っていると100%否定したりするのは、気分的に楽だからだ。
でも、まだ結論が下せない問題については、もどかしさを我慢することは大切だろう

(更新日 : 2022年03月28日)