森林文化学習会 12月

~森林を良く知ろう~    [森林観察学習部会]

2019.12.05 12.19

12月の学習項目は以下の通りでした。
〇12月5日
第7章 農山村における気候変動の影響と対応策……………………………………………黒田
第8章 グレーインフラからグリーンインフラへ……………………………………………定成

〇12月19日
第9章 気候変動下における山岳リゾートとの将来展望と適応策……………………………石田
第10章 地球温暖化対策は今年のCOP21で第2段階へ………………………………………下田

1月の学習予定
〇1月9日 場所:ゆいわーく茅野 101会議室
トレンドビュー
第1章 CLTは国産材料利用拡大に救世主となりうるか …………………………………吉江
第2章 震災復興と防潮堤……………………井村j

〇1月23日 場所:中央公民館いきがいサロ
第3章 森林・生物多様性と持続可能な開発目標(SDGs)交渉…………………………中野
第4章 みんなで森の再生 木の駅、森の健康診断……………………………………………矢崎

気候変動下における山岳リゾートの将来展望と適応策 東海大学観光学部教授 田中伸彦

森林環境2015 テキストP99~108    石田豊さん(会員)の資料から抜粋

1.はじめに

●地球温暖化は、既定路線でとにかく進むだろう。気候変動も避けられずに進む。となると→「山岳リゾート」は影響を受ける。(100P)
影響の具体的なイメージとしては、
・気温・降雪量と時期の変化で、アクティビティの時期に影響が出る。
・降雨量の変化による地形への形態変化(流水災害)。
・気候変化による動植物の生態系の変化、景観の変化や感染症への対策の変化など。
・気候変化による作物の変化など、地域特産品の変化など。
気候変動への対抗策は難しいが、適応策として、50年後100年後に向けて。山岳リゾートをどのように気候変動に合わせて変えていくのかを真剣に考え、実行に移さなければならない。

2.二酸化炭素削減に関心が高い観光業界

●この章では、観光業界がやっていることと、責任について論じているのだが、筆者が言うように観光業界が責任を感じているのか?!は、たぶんに疑問と思われる。
観光=旅行(ツアー)とは、「旅行者の出発地(日常生活の都市)~→乗り継ぎ行程地域(トランジット)を経由し~→目的地=山岳リゾートなど(自然の非日常)に滞在し~→トランジットを経由し~→再び日常の都市に戻る」総体を指す。
山岳リゾートのような遠隔地を目指すことこそ、目的地にたどり着くまでの移動やトランジットの過程で、二酸化炭素を大量に排出してしまう(グレタ・トゥーンベリさんがヨットを利用する理由)。ということを筆者は、観光業界は責任を感じている。と言うのだが、果たしてそうだろうか???!
●国連世界観光機関(UNWTO)の試算では、観光活動による二酸化炭素排出シェアは、4.95%であり、内訳は、・航空機産業 40%、自働車 32%、宿泊 21%などとなっている。

3.日本における気候変動と観光に関する研究

●気候変動と観光の関係性を見ていくと、以下のような影響が考えられる。
≪マイナス面≫
・サンゴの白化現象
・雪不足によるスキー場の閉鎖
・流氷や樹氷などの冬の自然現象(冬の景観資源)の消滅など
≪プラス面≫
・積雪減少によるゴルフ場の通年営業など
≪間接的影響≫
・収穫可能な農産物の変化に伴う地域特産物(郷土料理やお土産)への影響
・生物相の変化による旅行先での感染症への対策(ハマダラ蚊→マラリヤ)など
に言及されているのだが、個人的な意見を言って良ければ、だいぶ矮小化されている感じがする。

4.影響を与えるのは気候変動だけではない

●田中氏にとっての関心事は、気候変動ではなく、余暇ライフスタイルの変化そのものであることは、この章の出だしの4行を見ると解る。
「気候変動が山岳リゾートに与える影響に関する研究が少ないことには訳がある。実のところ、現在日本の山岳リゾートの行く末に多大な影響を与える要素は、気候変動よりも、国民の余暇活動の嗜好の変化であり、人口減少なのである。」と言っている。
●日本の余暇ライフの事例を(レジャー白書で)見ると、
・日本のスキー人口は、1993年の1770万人をピークに、2012年には560万人と1/3に、同年のスノボ人口230万人を合計しても、790万人と半減以下。
・日本のゴルフ人口は、1980年代90年代の最盛期に、 1500万人だった。
2006年に1000万人を割り込み、
2012年には、790万人に減っている。
これは、ゴルフ好きの団塊世代の高齢化が影響していると考えられる。
●日本のレジャーライフは、人口減少期に入ったことと、日本人の嗜好の変化によって、大きく減少している。
日本の人口減少長期推計としては、2014年6月の「日本創成会議」人口減少問題検討分科会によると、現在1800ある市区町村(地方自治体)のうち、2040年には896の自治体で、20~39歳女性が5割以上減り、523自治体では、人口1万人未満になる(限界集落化)。
山岳リゾートにとって、人口減少状況は、気候変動要因よりも深刻な影響をもたらす。

5.そもそもリゾートは日本に定着しているのか

●リゾートの概念が欧米型モデルのようであるなら、日本に定着しているとは言えない。欧米型余暇ライフを深堀したアリストテレスの余暇の定義(104Pの表1)から見ると、日本では、リゾートの余暇ライフが定着しているとは言えない。日本の余暇ライフの実態は、まとまった休暇を取る制度も習慣もなく、せいぜい数日程度の余暇期間にバランス悪く、パイディア的娯楽に偏った(ワンデイ・パスポートでディズニーランドで遊ぶことか?!)ライフスタイルしかない。
※:アリストテレスの余暇の定義で「気分転換、気晴らし、娯楽など」のこと。

6.どのようなリゾートが求められているのか

●日本でのリゾート観の変遷。リゾート観の歴史を振り返ると、
・日本では現在よりも江戸期の方が、講(お伊勢参り)や湯治旅行などにより、余暇思想が庶民の間に共有されていた。
・明治期に入ると、外国人により、軽井沢、日光、上高地などの山岳リゾートが発見され、スキーなどのスポーツも紹介されて、西洋的なライフスタイルの過ごし方が浸透し始めた。
・昭和期(戦後高度成長期)に入ると、リゾート・ライフスタイルとは縁遠い1泊2日の職場旅行が大衆化した。また一方で、年に2回の実家への帰省が、ある意味でリゾート余暇行動として機能していた。と考えられる。
・平成にうつると、日本はバブル期とバブル崩壊を経験し、その当時の「総合保養整備地域整備法(リゾート法)」の施行の下で、リゾート開発の狂乱と挫折を経験した。
(例)・村おこし、町おこしと絡んだ半官半民のリゾート開発
・テーマパーク構想が乱立し、バブル崩壊によって消費者を失い数多くの計画が頓挫した。
・簡保の宿など
日本人は、高度経済成長とバブル景気に浮かれるうちに、リゾートが人間性を維持・回復するために大切な余暇空間であることを忘れ去り、巨大な経済効果を生み出す消費の対象とみるようになった。リゾートの本来の意義を失った経済開発は、未来へのレガシーすら残さなかった。
・今後の展望としては、バブル経済が弾けた後、エコツーリズムやグリーンツーリズムが徐々に浸透していることに、若干の希望が見いだせる。山岳リゾートでも、新たな形態のツーリズムを取り入れて持続可能な観光を推進することが期待される。これからは伊藤洋志が提唱するような「フルサト」を作るマルチハビテーション的な半居住的訪問という形態も取り入れるべきであろう。

7.山岳リゾートの将来を考える際に念頭におくべきポイント

●山岳リゾートなど自然地域を活用する観光を計画するに当たっての3原則
・第1の原則は、「自然は訪れるに値する」
山岳リゾート開発では、得てして近視眼的で金銭的な採算性だけに目を奪われ、自然環境の持続性を無碍にするような行為が後を絶たない。自然景観に違和感のあるデザインのホテル開発など。
・第2の原則は、「自然は保全しなければ壊れてしまう」
山岳リゾートでは、広大な空間と斜面を活用したアクティビティを生かした計画を推進しながら、今後の気候変動の影響も考慮して、過度な利用を控えて持続する環境を保全する計画とすることが大切である。
(例)最近話題になっている「観光公害」に注意する。と言うことか。沖縄の「久高島」、京都の祇園、富士山、高尾山など、観光客が集中すれば、環境破壊は止めることは難しい。
古い話を持ち出せば、かつてのアウトドアライター芦沢一洋氏(懐かしい)は、バックパッカーの思想としてこう言った。「自分の生活に必要な物は、自分の肩に背負って、自然に入り、戻る。」当時の標語に「ゴミは持ち帰ろう。残してくるのは足跡だけ。」と言うのがあったが、芦沢氏は、どこかの山に1週間ほどキャンプに入ったが、テン場(テントを張る場所)と水場の間に、足跡で踏み跡道ができたことを嘆いていた。

・第3の原則は、「自然は恐ろしい」
気候変動による災害のリスクは増加する。そのことを念頭に置いた計画を推進する必要がある。
(107P 表2参照)

(更新日 : 2020年01月16日)