森林文化学習会 9月

~森林を良く知ろう~    [森林観察学習部会]

2019.9.5  9.19

第6章 気候のティッピングポイント
2 ティッピングポイント※1は来るのか 下田英雄さん(会員)の資料から

※1 ティッピングポイント:それまで小さく変化していたある物事が、突然急激に変化する時点

大西洋子午面※2循環
・急激な気象変動をもたらす要因として、大西洋子午面循環の弱まりとメキシコ湾流の停止の可能性が注目されている。
・世界の海洋の深層循環を駆動している大元は大西洋子午面循環。まず大西洋北部のグリーンランド海・ノルウエー海・アイスランド海で塩分濃度の高い表層の海水が冷やされ、密度が高くなって深層迄沈み込む。もともとこの表層水は、蒸発によって塩分濃度の高くなった亜熱帯地域からメキシコ湾流によって運ばれてきたもの。この両者を合わせて子午面循環と呼んでいる。
・北大西洋で沈み込んだ深層水は低層を南極付近まで南下し、そこから東に流れてインド洋や太平洋で浮上した後、大西洋に戻るという海洋深層循環が形成されている。
※2 子午面:本来は、地球の両極と中心を結んで輪切りにした面。ここでは、南北両半球を貫く広がりをもった地表面の意

最終氷期の急変動
・大西洋子午面循環の変動が、過去に急速な気候変動を引き起こしたと考えられている例がある。
2例紹介されているが、本誌面では省略。

子午面循環が止まるか
・もし北大西洋表層において、温度上昇や塩分濃度低下によって海水密度の低下が持続すれば、すべての気候モデルで深層循環の弱まりや完全な停止が起こりうると予想されている。そうなると、全世界的に大規模な影響を及ぼすと心配されている。
・問題は、人間活動の影響が深層循環の変化を引き起こす引き金になるかどうか。
温暖化によって降水量が増加すれば、北大西洋での増加のみならず陸地から北大西洋に流入する淡水も増加する。また、陸氷が融解して淡水が供給されれば表層水の塩分濃度はさらに低下する。これらによって、21世紀中に深層循環は弱まると考えられている。
ただ、気候モデルの予測では、21世紀末までにほとんど変化なしから、50%以上弱くなる予測迄、大きな幅があるが、深層循環が急激に弱まったり停止すると予測するモデルはない。
・さらに将来、人間活動による温暖化が原因で、深層循環が停止し、氷河期が来るか?現在の知見では、深層循環が弱くなるとしても、それによる冷却効果より人間活動による温暖化の影響の方が大きく上回るため、ヨーロッパでも昇温が続くとみられており、温暖化が引き金となって氷河期(寒冷化)に至ることはないとみられる。

グリーンランド氷床と南極氷床は融解するか
・急激な気候変化として議論されているもう一つの例は、グリーンランドや南極の氷床の急速な崩壊。
・北半球高緯度の温暖化は、グリーンランド氷床の融解を加速しており、今後数世紀で大きく縮小する可能性ある。グリーンランドの気温がある温度を越えると氷床が完全消滅に向かうという しきい値が存在するという研究例もあり、そのしきい値は世界平均地上気温上昇量で1~4℃の間にあるといわれている。「二酸化炭素排出シナリオ」(p.106,110の図表参照)によっては、21世紀中にこの温度を越える可能性がある。ただ、世界平均海面水位を7m上昇させるほどの大きさを持つグリーンランド氷床全体が融解するには数世紀かかると思われる。
・一方、南極の氷床の末端は棚氷となって海に突き出しており、海水が温まると棚氷が崩壊し、氷床の流出が加速的に起こる可能性がある。ただ、このような現象を予測するための定量的な情報はまだ得られていない。

永久凍土が温暖化を加速するか
・アラスカ、カナダ、シベリアやチベット高原には、年平均気温が0℃以下の地域で永久凍土が存在しており、その底にはメタンハイドレード※3が含まれているので、永久凍土が融解すると、強力な温室効果ガスであるメタンが大気中に放出され、温暖化を加速する可能性がある。しかし、永久凍土が解ける際のプロセスは未だよく分かっていないので、定量的な予測は今のところ不可能。
※3メタンハイドレード:メタンの周りを水分子がかご状に取り囲んで凍った包接水和物(氷状の個体)。火をつければ燃えるので「燃える氷」とも言われる。低温高圧条件下で存在(例:30気圧でー30℃以下)。温暖化対策のエネルギー源とみられているが、効果的な採掘方法が未確定。

アマゾンの森林は枯渇するか
・アマゾンなどの熱帯の森林(温帯の森林も)が、気候変動の結果、枯渇するかどうかは不確実。降水量が減少し、干ばつが続くことにより枯渇する可能性は考えられ、気温上昇によって影響を受けることは否定できないが、結果の予測は困難。

北極の海氷は消滅するか
・北極海の海氷面積は、年平均で4%程減少を続けており、「高位参照シナリオ」では、今世紀半ばまでに9月の北極海で海氷がほとんどなくなる可能性が高いと予測されている。つまり、夏の北極海の海氷減少は、すでにティッピングポイントを越してしまったとも考えられる。ただし、まだ観測年数が短いことや気候システムのスケール変動を考えると結論づけることはまだ困難。

ティッピングポイントの確信度は低い
・本章で示した急激な気候変化は、過去に起こったことは分かってきたものの、今世紀中に起こるかどうかは分からないというのが実際。IPCCの報告書でもこれらの現象については「一般には確信度は低く、21世紀にそうした現象が現れる可能性についての合意はほとんどない」としている。なぜなら、急激な気候変動のメカニズムが完全には分かっておらず、そのためのモデリングもできていないため。
・第3章で述べた古気候の研究は、気候変動のメカニズムを明らかにしていくことを通して未来を予測するためにも重要になっている。


10月の学習項目
〇10月3日
まとめ…………………井村
後半の担当決め
<後半の教本>
「進行寄稿する変動と森林」
発行 公益財団法人 森林文化協会
〇10月17日
担当未定 3日に決定する。

(更新日 : 2019年10月12日)