H30年度 事業計画・報告

今、市民の森は!  (H30年度)


 この「今、市民の森は!」というタイトルで、事務局だより毎号に連載しています。
 本コーナーは事務局だより第2号から井村が担当し、毎回植物の異なる種を選んで計59種紹介してきました。
 今年度からは、昆虫に目を移し、森林観察学習部会の馬場さん(月例観察会のスタッフ)にバトンタッチします。
3月に発行したガイドブック2には昆虫も沢山掲載しました。合わせてご愛読ください。


2018.4.17

 今年の市民の森の芽吹きは例年より早く、昆虫たちも戸惑っ ているでしょうが、下見日は絶好の観察日和。越冬タテハ類やスプリング・エフェメラル(春の妖精)と呼ばれるミヤマセセリやツマキチョウ・コツバメなどに混じり、 暗青色の小さなシジミチョウがチラチラ飛び回り、湿地面や獣糞にストロー(口吻)を伸ばして、ミネラルなどを補給していました。
 その暗青色の小さなシジミチョウの正体は春の妖精の仲間で渓流沿いに生息するチョウ、スギタニルリシジミ♂です。
翅を閉じて砂利道に止まると、翅裏は見事な保護色ですが、根負けするくらい翅を開かないので、翅表の暗青色は中々見せて貰えません 。暖かく無風の日の炭焼き窯付近が、彼らを観察出来る絶好ポイントです。
 また、この時期この標高では、他に似たシジミチョウは居ないので同定は簡単です。
 発生は年一化、越冬態は蛹で、早春に羽化。母蝶は食樹のトチノキが当地ではほとんど自生していないため、ミズキの花芽に産卵すると 推定しています。
<注>年一化:1年間に1回世代が変わる。

スギタニルリシジミ

スギタニルリシジミ
 チョウ目 シジミチョウ科 ルリシジミ属
国内分布:北海道・本州・四国・九州・南西諸島
国外分布:中国大陸中部


2018.5.15

 5月の観察会は好天の中、横河口スタート。付近を飛ぶツマキチョウやスジグロシロチョウに混じり、ひと際ゆったり飛翔する大きめなシロチョウが目を惹きますが、れっきとしたアゲハチョウ科のウスバアゲハ(ウスバシロチョウ)です。
今は♂の最盛期らしく、デイト相手を余裕で探していますが、彼女達の登場は1週間ほど遅くなります。しかたなくハルジオンやウツギの花で吸蜜し憂さ晴らし、明日に賭けよう・・・・
 ウスバアゲハは名前の通り、半透明で白い翅と胴体の黄色い毛が特徴で、交尾後の♀の腹部に、受胎嚢という♂の分泌物が付けられる特異な仲間の一員で、翅の白色鱗粉と黒色鱗粉の比率に地域的な変異があるなど、興味をそそられる種です。
また、氷河期の残党で、陽光の下で活動することから、アルプス山脈などに分布する仲間はアポロチョウと呼ばれています。
 卵越冬で年1化、早春に食草ムラサキケマンの芽吹きと共に孵化、5月ころ地上で簡素な繭を作り蛹化、続いて羽化します。
<注>年一化:1年間に1回世代が変わる。

ウスバアゲハ

ウスバアゲハ(ウスバシロチョウ)
 チョウ目 アゲハチョウ科
   ウスバアゲハ(パルナシウス)属
国内分布:北海道西南部・本州・四国
国外分布:中国大陸中部


2018.6.14

 6月は仮設トイレの掃除当番でした。生憎の好天?で、汗を拭きつつの作業の合間の水車小屋付近で、ちょっと羽ばたいては滑空する独特の飛翔をするチョウを見かけました。
 黒地に三筋の白紋の渋いチョウ。近縁4種の内の1種、ミスジチョウです。食樹カエデ類付近をゆっくりと巡回し、獣糞や湿地などで吸汁、吸水する姿を稀に観察できます。本種は主に山間部に生息、コミスジ・ホシミスジ・オオミスジは食樹の関係から、意外と人家近くに生息しているので観察出来る機会は多いです。
 ミスジチョウは年1化、4齢幼虫で樹上の枯葉に摑まって越冬し、6月頃羽化、成虫になります。寒冷地ではちょっと小型に、♀は産地により大型の個体が出現するなど、地域的な変異も有るようで興味深い種です。
<注>年一化:1年間に1回世代が変わる。
   4齢幼虫:卵から孵化した幼虫が3回脱皮すると4齢。タテハ類の幼虫は5齢までが大半

ミスジチョウ

ミスジチョウ
 チョウ目 タテハチョウ科
   ミスジチョウ属
国内分布:北海道・本州・四国・九州北部
国外分布:中国大陸・アムール・ウスリー・
     朝鮮・台湾など


2018.7.17

 観測史上最も早い梅雨明けで、標高千メートルを超える市民の森でさえ茹だるような暑さの中の観察会は死の行軍。
 昼行性の黒い「ガ」が所どころ飛んでいます。止った姿は黒いマントに赤い襟巻の貫一か? 頭部が赤く、ホタルに擬態しているからホタルガと 呼ばれる蛾の仲間で、下翅にも白色紋があるのでシロシタホタルガと名付けられましたが、実際にもホタル同様の毒性を有すると言われ、 幼虫の背中の分泌腺からの液に接触すると痒い赤疹がでるらしく、鳥も捕食しないらしい。
 同定は見ての通り簡単、上翅を重ねて止まった時の班紋が黒地に白い横一文字が本種で、Ⅴサインに見えたら近縁種のホタルガです。
 7月に発生、年1化、食樹は付近に多く自生しているサワフタギなどで、5、6月ころ幼虫による食害が目立ちます。
<注>年一化:1年間に1回世代が変わる。

シロシタホタルガ

シロシタホタルガ 開長5~5.5㎝
 チョウ目 マダラガ科 ホタルガ亜科
国内分布:北海道・本州・四国・九州
国外分布:中国大陸・旧満州・朝鮮半島

シロシタホタルガ幼虫

ガイドブックの表紙を飾っているカラフルな芋虫がシロシタホタルガの幼虫です。


2018.8.14

 8月の観察行は酷暑対策上、木陰の林間コースが理想だけれど、薄暗い林中は虫影も少ない。 それでもちょっと開けたススキなど生えた明るい草地にさしかかれば状況一変、茶色い中型のチョウが飛び出します。 正体は夏の草原の常連さんのジャノメチョウです。平地から高原まで幅広く生息していますから、虫嫌いの諸兄もきっと目にした事はあるはずです。 こげ茶色に蛇ノ目の班紋では渋すぎて印象が薄いですが、人間に注目されずに生きられるのは、チョウとして幸ですね。
 本種は年1化、晩秋に孵化した1令幼虫はそのまま越冬、翌春目覚めと共にススキなどの食草をサクサク食べて成長、土中で蛹化し7月に入り羽化出現します。
 また、母チョウは地上に産卵するなど生態的にも面白く、蛇ノ目紋の数が多いなどの個体変異も有り、興味深い種です。
<注>年一化:1年間に1回世代が変わる。

ミスジチョウ

ジャノメチョウ  開長6㎝
 チョウ目 ジャノメチョウ科 ジャノメチョウ属
国内分布:北海道・本州・四国・九州
国外分布:中部ヨーロッパから中国大陸・朝鮮半島まで


2018.9.18

 秋のそよ風が渡り始めた観察路は、ヒョウモンチョウ類やキノコ類との出会いで忙しいが、 路脇の草叢に落ちている大型のガ(ヤママユの仲間)が目につき、なかでもクスサンは多く、♀の胴体部は太く重たく、とても飛翔出来そうには見えません。 成虫の外にも、初夏にクリの木を丸裸にする長毛で青白い8㎝くらいの幼虫や、冬期に枝先のこげ茶の網目状の繭殻も見かける機会が多いです。 諸兄のなかには少年期に、クスサンの幼虫の絹糸腺から釣り糸を作った経験者もいると思います。
 ♂はひとまわり小型で地色が茶色、♀は薄茶色で区別は可能で、また、食樹はクリ、コナラ、サクラなど幅広いです。
 本種クスサンなどヤママユの仲間の多くは年一化、卵越冬、翌春孵化、初夏に蛹化、初秋に羽化、口吻は退化して無いため成虫は摂食せず、 幼虫時の貯えのみで交尾・産卵し、わずか1週間ほどの寿命と言われています。
<注>年一化:1年間に1回世代が変わる。

クスサン

クスサン ♀ 開長10~13㎝
 チョウ目 ヤママユガ科 ヤママユガ亜科
国内分布:北海道・本州・四国・九州・沖縄
国外分布:中国大陸・台湾・朝鮮半島など

幼虫
幼虫

繭殻
繭殻


2018.10.9

 10月に入るとムシ達の気配も無くなって来ますが、久しぶりの北コースでテンションを高めつつ前進、池近くの湿地帯を抜けようとする時、変な飛び方をする中型の茶色いガ?がススキの根本に潜り込んだ。ひょっとして・・・予感が的中。この森で初記録のクロコノマチョウとの出会いでした。翅を閉じて留まるとまるで枯葉、絵に描いたような見事な擬態です。前翅表の大きな変形蛇の目紋と、翅外縁の一部が尖るのが特徴で、ジャノメチョウの仲間です。
 近年の温暖化に因るのか東海、伊那谷方面から分布を広げているようで、暖地性のチョウですが日中は活動せず、夕暮れ時に気温が下がる頃に活発に飛翔します。
 成虫の発生は暖地では年3化、成虫越冬、諏訪など寒冷地では7月(夏型)と10月(秋型)の年2化、食草はジュズダマ、ススキ、ツルヨシなど。来シーズンの幼虫探しが楽しみです。
<注>年3化:1年間に3回世代が変わる。
  (夏型)(秋型):羽化季節で班紋が異なる。多化性の種に多い。 

クロコノマチョウ

クロコノマチョウ 開張7.2㎝
 チョウ目 タテハチョウ科 ジャノメチョウ亜科 コノマチョウ属

国内分布:本州中部以西・四国・九州・屋久島など
国外分布:カシミール以東・中国大陸南部以南・スマトラ・セレベスなど

クロコノマチョウ
枯葉そっくりの翅裏班紋


2018.10.30

 猟期が近づいて来た今季最終回の下見行は、さすがに生き物達も肌寒さを感じ始めたのか、ほとんど気配が消えています。晩秋の林道を越冬に入る直前のタテハチョウ類が飛び交うシーンも無いまま、やっと頂上広場でモンキチョウを確認し、池では鴨類やオオアオイトトンボ・オオルリボシヤンマの産卵を観察、最後は四阿のテーブル上で辺りを睥睨するオオトビサシガメ(日本で最大のサシガメ)です。
サシガメ類は小昆虫を餌とし、折り畳み式の針の様な口吻で刺し体液を吸う。オオトビサシガメの臭腺からのフェロモンはバナナの香り、キバラヘリカメムシは青リンゴの香りがするとの説も有り、各種試してみるのも面白そうですが、むやみに掴むと刺され激痛が走るというから要注意!
オオトビサシガメは年1化、晩夏に羽化し成虫越冬するので薪棚でもよく見かけます。
<注>年1化:1年間に1回世代が変わる。 

オオトビサシガメ

オオトビサシガメ ♀ 体長27㎜
 カメムシ目サシガメ科

国内分布:本州・四国・九州ど

オオトビサシガメ
折り畳んだ口吻

私たちは、このような活動を通じて人と森林との新たな関係を作り出し、豊かな森林を次世代にバトンタッチしたいと願っています。